在庫の精度がもたらす財務影響


著者Joannes Vermorel、2012年2月推敲

在庫最適化の上では、より正確な需要予測は明らかに良いことです。しかし、多くの小売業者や製造業者にとり、予測精度の向上によって生み出される財務利益の定量的評価は、一般に、依然として曖昧な分野です。この記事では、予測改善によって齎される利益の計算方法を詳しく説明します。

この記事で採択している見地は、棚卸資産 回転率が15%以上の高い場合に最も合致しています。また価値に於ける優性効果は欠品ではなく、膨大な量の棚卸資産、そして、より良い予測を通じての棚卸資産の削減にあります。なお、この状態に当てはまらない際は、回転率が低い場合の代替数式がございますので、こちらをご覧になってください。

数式

証明の詳細は後述しますが、先ずは最終的な結果から始めてみましょう。以下の通り変数を設定します。

  • $D$ 売上高(年間売上総額)
  • $m$ 粗利益
  • $\alpha$ 粗利益に対する欠品コストの比率
  • $p$ 現在の誤差レベル(および現在の在庫レベル)で達成されたサービスレベル
  • $\sigma$ MAPE(平均絶対誤差率)として示される、導入されているシステムの予測誤差
  • $\sigma_n$ ベンチマークとして目される新たなシステムの予測誤差(願わくば$\sigma$よりも低い)

予想修正による年間利益$B$は以下の通り表せます。 $$B = D (1 - p) m \alpha \frac{\sigma - \sigma_n}{\sigma}$$ Excelシートをダウンロードする: accuracy-gains.xlsx (計算を図解)

数式に於いて、MAPEによる誤差測定をMAE(平均絶対誤差)に交換することは可能です。なお、棚卸資産の中に回転率が遅いアイテムがある場合、むしろ交換することを強くお勧めします。

実例

新たな予測システムを通して、(相対的)予測誤差を10%縮小することができた大型小売ネットワークの場合を考えてみましょう。

  • $D=1,000,000,000€$ (10億ユーロ)
  • $m=0.2$ (i.e.粗利益率が20%)
  • $p=0.97$ (i.e. サービスレベルが97%)
  • $\alpha=3$ (欠品コストは粗利益の減少損失の3x)
  • $\sigma=0.2$ (MAPEが20%)
  • $\sigma_n=0.18$ (MAPEが18% - 先回の誤差に比べ相対的に10%低い)

上記の式に基づいて、年間利益はB =1,800,000€と算出できます。小売業者の全体の収益率を5%と仮定するなら、予測精度の10%の改善により、既に全体の利益の4%に寄与していることとなります。

数式の証明

根本的なことながら、在庫の最適化とは、過剰在庫費用対過剰欠品コスト間のトレードオフです。

ここで、与えられた在庫水準に於いて、欠品の頻度が予測誤差に比例すると仮定しましょう。なお、この点については、次のセクションで実証致します。

欠品による販売機会損失の総量を予想することは単純で、少なくとも$p$の値が適度に高い数値であれば、$D(1-p)$となります。実際には、$p$が90%以上となれば、この推定は非常に良好です。

従って、在庫切れによる失われた利益の総額は$D(1-p)m$となります。

更に、利益の損失のみに限定されない(例えば顧客ロイヤルティの損失など)、在庫切れによる実際のコストをモデル化するために、係数$\alpha$を導入します。従い、在庫切れに起因する総経済的損失は、 $D(1-p)m\alpha$となります。

欠品は誤差に比較するとの想定に基づいて(後述)、新しい平均予測誤差による欠品コストの進化として、因数$(\sigma - \sigma_n) / \sigma$を適用する必要が出てきます。

よって、最終的に以下の公式が導かれます。 $$B = D (1 - p) m \alpha \frac{\sigma - \sigma_n}{\sigma}$$

在庫切れは誤差に比例する

ここでは、特定の在庫水準に於いて、品切れが予測誤差に比例しているとの説を実証します。

そのためには、先ずはサービスレベルが50%($p=0.5$)の時を想定してみます。この時、安全在庫フォーミュラは 安全在庫ゼロを示しています。安全在庫フォーミュラには、複数の変形が存在しますが、全て、この観点からは同じ動きをします。

安全在庫がゼロなことで、予測誤差による損失を評価することが簡単になります。需要が予測以上であった時(確率50%にて発生し、$p=0.5$によって定義付けられる)、販売機会損失の平均比率は$\sigma$となります。なお、このことは$\sigma$が平均絶対誤差比率であることに起因しているからです。しかしながら、新たな予測システムに於いては、損失が$\sigma_n$となります。

よって、$p=0.5$の時、在庫切れは予測誤差に比例すると言えます。旧来のシステムを新たなシステムに交換することで見られる在庫切れの削減は、$\sigma_n / \sigma$となります。

さて、$p \not= 0.5$の時はどうでしょうか。50%とは異なるサービスレベルを選ぶことで、平均予測の問題はクォンタイル予測問題に変換してしまいます。従い、クォンタイル予測に適した誤差測定は、MAPEではなく、ピンボールロス機能となります。

しかし、ここで二つの平均予測(旧来システム、および新システム)はクォンタイル(再発注ポイント再発注ポイントを算定するための)として推定することができ、同じ数式ながら、それぞれの誤差の比率も同じままであると言えます。特に、安全在庫が基準在庫に比べ少なければ(20%以内)、この近似は実際のところ完璧となります。

在庫切れコスト (α)

ビジネスの在庫切れによる実際の影響を反映させるべく、因数$\alpha$が導入されました。余分な欠品による損失は、少なくとも失われた粗利益に等しいことから、最少値は$\alpha = 1$となります。欠品の限界費用を考慮した場合、確かにインフラ費と人件費は全て固定費であることから、利益が考慮されるべきとなります。

しかしながら、在庫切れコストは一般に粗利益を上回ります。確かに、在庫切れによって齎されることには以下のものがあります。

  • 顧客のロイヤルティーの損失
  • サプライヤーの信頼損失
  • サプライチェーンの能力(倉庫、輸送など)に圧力が掛かることによる不安定な在庫の動き
  • 在庫切れを軽減させようと何とか試みる流通チームでの一般的な努力
  • ...

複数の大型食品小売販売網にて、経験則から、α=3と想定しています。在庫切れコストが高いからこそ、小売ネットワークは一般に95%を上回る高いサービスレベルを追及するのです。

安全在庫についての誤解

ここでは、余分な精度のみが安全在庫を削減すると表現されるように、余分な精度に関する良くある誤解を暴こうと思います。

安全在庫フォーミュラを見ると、その他の変動要因(特に在庫切れ)は同じである時、予測誤差の削減の影響により、安全在庫の低減は限定されると思いがちになるかもしれません。これこそが主要な誤解なのです

従来の安全在庫分析は、棚卸資産を二分します

  • 最初の在庫、調達需要と同等。つまり、 リードタイムで乗じた平均需要予測
  • 安全在庫、サービスレベルである$p$に依るところが大きい安全係数により乗じられた需要誤差と同等。

サービスレベルが50%であった状況に戻ってみましょう。この時、安全在庫はゼロでした(上述)。もしも予測誤差が安全在庫部分のみに影響しているのであれば、最初の在庫は冴えない予測から影響を受けないことになります。しかしながら、最初の在庫以外の棚卸資産はないことから、棚卸資産全体が任意の悪い予測に対して影響を受けないといった不条理な結論に達することになります。これが意味をなさないことは明白です。よって、当初の推定である安全在庫のみが影響を受けるといった考えが間違っているのです。

不正解でありながら、安全在庫の数式を見ると、一つの直接の結果であるろ思われることから、安全在庫のみとの想定には心が動かされます。しかしながら、結論を焦ってはなりません。結果は一つではないのです。最初の在庫は需要予測の上に成り立っているのです。それこそが、より正確な予測から先ず最初に影響を受けるのです。

より進んだ話題

ここでは、明確さと簡潔さを優先としたことから、論じてこなかった詳細な内容を掘り下げます。

リードタイムの変化の影響

上記の数式は、予測誤差を0%とするには、在庫切れをゼロにする必要があることを明示しています。顧客需要が一年前に100%の精度で予想できるのであれば、完璧に近い在庫水準に達することは、そうすごいことではないかもしれません。ただ一方で、変化するリードタイムといった要因が作業を複雑化しています。需要が完全に分かっていても、変動する納入時期などが新たな不透明感をもたらしかねないのです。

実際には、リードタイムに関する不確かさは、需要に関する不確かさに比べ、一般に小さいことが分かっています。従い、変動するリードタイムの影響を無視することは、予測が何かと不正確である(MAPEが10%以上とする)時点に於いて、理にかなったことなのです。

Lokadからの一言

優れた予測を提供することは、Lokadの最優先事項です。先進予測システムを既に導入しているお客様企業は、一般に相対的予測誤差を10%は低減させることができています。これまで特に何も導入されていないお客様企業では、最大30%の効果が見られています。ただ、どうぞご自分の目でお確かめください。在庫管理の作業から解放するためにも、弊社のSalescastにてベンチマークしてみてください。